国王陛下の話をにわかに信じることはできませんでした。
 ただ、第二王妃もジョーヌ王子も亡くなった今、国王陛下が保身のためにそんな嘘を吐く必要はないようにも思います。
 もしも、彼の話が本当だとしたら、一体誰が私のワインに毒を盛ったというのでしょう。
 ここでふと、私はあることに気づきました。

「国王陛下、給仕は……エミールにグラスを手渡した給仕がいたはずです。彼は、なんと証言したのですか?」

 ワインには確かに毒が入っていました。
 私はそれで臓腑を冒され、血を吐いて絶命したのです。
 無差別殺人でもない限り、私が飲むと知ってワインに毒を入れた者が必ずいるはず。
 そして、それを知っているのは給仕か、あるいは給仕自身が犯人なのかもしれません。

「国王陛下、給仕は何者なのですか? 私に何か恨みでもあったのでしょうか?」

 ついに、自分を殺した真犯人にたどり着くかと思われました──それなのに。
 国王陛下が、雪の地面から生えた首をゆるゆると横に振って言うのです。

「アヴィス……エミールにワインを渡した給仕など、存在しなかった」
「……は?」
「存在しなかったんだ。あの時、給仕は誰もエミールの側にはいなかった。エミールは、どの給仕からもグラスを受け取ってなどいなかったんだ」
「何を……何を、おっしゃっているんですか……?」

 そんな馬鹿なこと、あるはずがありません。
 エミールが給仕からグラスを受け取った姿を、私はこの目で見ていたのですから。
 国王陛下はなぜ、そんな見え透いた嘘を吐くのでしょう。
 私は目一杯顰め面をして、わけが分かりません、と抗議するように吐き捨てます。
 そのとたんでした。