「アヴィス、どうやって君が蘇ったのかは知らないが……どうか、エミールには会わないでくれないか」
「なぜですか? 私はエミールを救いたくて、はるばる魔界から戻ってきたのですが」
「あの子は王の器だ。今は、君を失ったことで我を忘れているかもしれないが、やがて君の死を乗り越えて正しくこの国を導いてくれるだろう。そのためには、君への執着を払拭することが不可欠なのだよ」
「……なんですか、それは」

 エミールが国王になるためには私が邪魔だとでも言うのでしょうか。
 エミールの許嫁として、幼少の頃からずっと彼中心で生きてきたというのに、あんまりです。
 私はその場にしゃがみ込むと、手に持っていた門番の大腿骨でもって、また国王陛下の頭をポクポクと叩きました。
 不敬罪ばんざい。 

「国王陛下は、最初からエミールが国王にふさわしいと思っていらっしゃったということですか? だったらどうして、彼の立太子を阻もうとする王妃の暴挙をお止めにならなかったんです?」
「そもそも大前提からして間違っているんだ。あの夜、君のワインに毒を盛ったのは王妃ではない。あのパーティーで君を殺そうなんて、王妃も誰も企んでいなかったんだ」
「あら。でしたらいったい、私は誰に殺されたとおっしゃるんです?」
「それは私にも分からない」

 私は眉間に皺を寄せ、なおもポクポクと国王陛下を叩きます。
 勢い余って彼の首はガクガクしておりますが、知ったことではありません。

「私が倒れた時、王妃が真っ先に声を上げたではありませんか。即座にエミールを下手人と決めつけた彼女が真犯人であると考えるのは、妥当でございましょう?」
「王妃が真っ先に声を上げたのは、自分がいの一番に疑われると確信していたからだ。この機に乗じて、エミールを排除しようという打算もあったようだがね」
「信じられません」
「そうだろうね。エミールも信じなかった」