「──エミールにだよ。この国は今、あの子の支配下にある」
「……はい?」


 私は一瞬、国王陛下の言葉が理解できませんでした。
 しかし、彼は構わず続けます。

「王宮は、エミールを主と崇める騎士団が制圧してしまった。逆らう貴族は殺され、あるいは着の身着のまま逃げ出した者もいるだろう。現在王都に残っているのは、エミールに忠誠を誓った者ばかりだ」
「なにを、言っているんですか……?」

 私はわけの分からないことを言う国王陛下の頭を大腿骨でもって叩きます。
 壊れたカラクリを叩いて直すみたいに。
 意外にも、ポクポクといい音がします。
 不敬罪?
 一度死んだ私にとっては、知ったことではありません。

「分かりました、首謀者は兄ですね? あの兄ならば不思議ではありませんもの。エミールは兄に担ぎ上げられたんですね? ねえ、国王陛下。そうでございましょう?」

 現在王宮を制圧しているという騎士団の長は、私の兄であるローゼオ侯爵。
 血の気が多く、かつ私を溺愛していた兄が、私を謀殺した国王夫妻に牙を剥くのは考えられなくもありません。
 エミールが城の外れの塔に幽閉されるのを阻止してくれたことには感謝しますが、彼を物騒なことに巻き込まないでほしいものです。
 だって、エミールは……