どうやら私が死んでから今日で五日目らしく、元の身体はやはりすでに墓の下のようです。
 いじらしいことを言って泣きじゃくるトニーに、私は身に付けているもので唯一金目がありそうな赤い宝石の髪飾りを与えました。
 元々は私のものではありませんが、私の髪を飾ったからにはもう私のものです。
 異論は認めません。
 現在時刻は午後四時を回ったところ。
 いつの間にかお茶の時間も過ぎていました。
 そういえば、ずっと飲まず食わずにもかかわらず、喉は渇かないしお腹も空きません。
 不思議に思って首を傾げていた私に、トニーはおそるおそるといった様子で尋ねました。

「そ、それで、アヴィス様。どうして戻ってらしたんですか? やっぱりあれですか? ご自身に毒を盛ってエミール殿下をはめようとした何者かに復讐を……?」
「復讐……そんなこと、思いつきもしませんでした」

 私は確かに殺されており、その自覚も記憶もあります。
 とはいえ、髪と瞳の色以外は生前と変わらない身体で今現在問題なく動けているせいでしょうか。
 実を言うと、下手人に対する恨みや怒りはさほどないのです。
 しかしながら、期待されると応えてしまいたくなるのが人間というもの。
 魔王の血肉でできた器が、人間に数えられるかどうかはさておき。
 せっかく地界に戻ってきたのです。
 幽閉されているであろうエミールを救い出す前に、ちょっと第二王妃のところに顔を出して挨拶でもしてやりましょうか。
 その節はどうも、と。

「そもそも、エミールが犯人ではないと、あなたはちゃんと理解しているのですね?」
「そりゃそーですよ! エミール殿下がアヴィス様を殺すわけないじゃないですか! だってあの方は……」

 殺したはずの私がけろりとした顔で現れたら、あのいけ好かない女はさぞ恐れ慄くでしょう。
 とたんにウキウキした気分になった私は、まだ何か言い募っているトニーの話も聞かず、ヒヨコと手を繋いで王宮へと足を向けたのでした。

 ところがです。

 時を経たずして、私は復讐相手と再会することになりました。
 正門から王宮の玄関までの間に広がる庭園──その中ほどの雪の上に、第二王妃はエミールの父親であるグリュン国王と仲良く並んでいたのです。
  

「あらー……」


 ただし──ともに、生首の状態ではありましたが。