「誰か、いるのですか?」

 おそるおそる問いかけますと、相手も息を呑んだようでした。
 私の心の動揺を映したみたいに、蝋燭の炎がゆらゆらと大きく揺れ始めます。
 その揺れは、何者かが口を開いたことでさらに激しくなりました。

「その声……まさか……アヴィス……?」

 私の名前を紡いだ男の声に、聞き覚えはありません。
 ですが、炎が大きくなったことで浮かび上がったその顔には、見覚えがありました。

「あ、あなた、は……」

 一月半前、グリュン王国の城内大広間にて執り行われていた、国王陛下の即位二十周年を祝うパーティー。
 その最中、第一王子エミールに毒入りのワインを手渡した、あの給仕の顔です。
 そして、その給仕の正体は……



「天使──私を殺した、天使だわ──!」



 私の激情に煽られるように、炎が凄まじい勢いで燃え上がります。
 それによって照らし出された神の御使いは、左の翼をズタズタに引き裂かれたおりました。

「ア、アヴィス……アヴィス……」

 ヒヨコが双剣を抜き放ち、私を背中に庇います。
 天使は床に這いつくばったまま、呆然とこちらを見つめていました。
 しかし、ふいに何かに気づいた様子で勢いよく起き上がります。

 彼は私を指差し、こう叫んだのでした。




「──なんで、ケモ耳ぃ!?」





『第五章 魔王の子とドラゴン族の姫』おわり