「……っ? ……っ!?」
「ヒヨコ、何ですか? くすぐったいです」

 ヒヨコはひとしきり首を傾げますと、廊下の窓の前まで私を連れていきました。
 彼に促されて、闇が透けて鏡のようになったそれを覗き込んだ私も、驚きます。


「まあ! これは……」


 頭の上に、髪と同じ銀色の毛に覆われた三角の耳が立っていました。
 
「犬耳……いえ、狼の耳かしら?」

 どうりで、よく聞こえるはずです。
 考えられる要因としては、この体に人狼族の長ルーの血肉も入っていることでしょうか。

「でも、今になって突然現れたのだから、子狼に噛まれた影響かしら?」

 もしくは、それらの相互作用によるものでしょうか。
 とにかく……

「今夜の私、すごいのですよ、ヒヨコ。真っ暗なのに昼間みたいに見えますし、すごくよく音が聞こえるんです」
「……っ! ……っ!!」

 ヒヨコはギュスターヴの寝室に戻るべきだと訴えているようですが、こんな面白いことになっているのに、寝ている場合ではありません。
 私は手袋に包まれたヒヨコの両手を握り締めると、満面の笑みを浮かべて言いました。
 
「大丈夫ですよ。今宵は、私があなたの手を引いてあげますから。ね?」
「……っ」

 こうして、私を引き止めるのを諦めたヒヨコを連れ、真っ暗闇の魔王城探検ツアーが始まりました。
 ノエルもドリーも部屋にこもっているようですし、魔王城にはもともと守衛もおりませんので、私とヒヨコを見咎める者はありません。
 その代わりと言っては何ですが、普段はあまり視界に入らない、低級な魔物が見受けられます。
 人狼族の影響を受けているのなら、私もルーのように強くなっているかも。
 そう考えて、闇に紛れてにじり寄ってきたスライムをモンコツ──骸骨門番の大腿骨で殴りつけてやりましたが……

「……戦闘力はゴミのままなんて、あんまりです」

 殴っても殴っても復活してくるスライムは、ある程度目が慣れてきたヒヨコが蹴散らしてくれました。
 そんな中……