「ごきげんよう、魔王。しかし、お前さん……既読無視はやめなよ。せめてスタンプくらい返しなさいな」
「あいにく、私はアヴィスにしか返信はしない主義だ」

 そういえば、クリスを私のところに遊びにやる際に、ギュスターヴにラインを送ったとか何とか言っていましたね。
 苦言を呈する魔女からさっさと逸らされたギュスターヴの視線が、私を捉えました。

「アヴィス、五時になった。帰るぞ」

 ふいに、私は口寂しさを覚えます。
 クリスが爆食いしているのをずっと見ていたせいでしょうか。
 相変わらず空腹を覚えることはないものの、何だか胸にぽっかりと穴が空いた心地がするのです。
 たまらず片手で胸を押さえて眉を顰めておりますと……

「どうした。どこか、怪我でもしたのか?」

 ギュスターヴに顎を掴まれて顔を上げさせられ、口を塞がれてしまいます。
 そのまま唇の隙間から吹き込まれた彼の精気は、やっぱりくどくて──けれど、胸に空いた隙間を満たしてくれる気がしました。

「あ、わわっ……」
「おやおや、クラーラ。可愛いねぇ。顔が赤くなっているじゃないか」
「う、うるさいっ! 赤くなってなんかないっ!」
「ふふふ、初々しいことだ」

 あくまで精気を口移ししているだけだというのに、クラーラが初心な反応をしています。
 それをからかう魔女の横では、クリスが何やら膨れっ面になっていました。
 私は私で、顔を背けて唇を離します。
 ギュスターヴの精気をちょっとだけおいしいかもしれない、などと感じてしまったのが癪だったのです。

「ほっぺをハムハムするの、やめてください」
「いいだろう。減るものでもなし。仕事終わりのお父さんに癒しをくれ」

 私に戯れつくギュスターヴを見てますます赤くなったクラーラと目が合いました。