「とにかく、私はクリストファーをドラゴン族に渡すつもりはないよ。ドラゴン族が束になったって私には敵わないから、クラーラの立場が揺らぐことはない」

 魔女の強さがはったりでないことをクラーラは知っているようです。
 悔しそうな顔をしつつも、彼女の言葉を否定することはありませんでした。
 魔女はそれに満足げな顔をして続けます。

「私はね、クリストファーを最強の魔法使いにするつもりだ。いつか、魔王を凌駕するくらいのね」
「……は?」

 魔女の野望を聞かされたクラーラがぎょっとする一方、当のクリスは口を尖らせました。

「ママ、おれ、それより、お団子屋さんになりたいなー」
「それはいいね、ぼうや。魔王より強い団子屋さんになればいい。そうしたら、アヴィスをお嫁さんにできるかもしれないよ?」
「そっか! じゃあ、おれ、お団子で魔王をたおしてアヴィスと結婚する!」
「ふふふ、いい子だね」

 ツッコミどころ満載な魔女親子の会話に、クラーラがドン引きしています。
 私は私で、ヒヨコに慌てて背中に隠されつつ、勝手に進められる結婚話に呆れておりました。
 そこに、新たな声が割り込みます。

 
「私より強くなるのと、アヴィスを嫁にするのは別問題だろうが」


 律儀に玄関から入ってきた、ギュスターヴです。
 その後には、黒焦げの羊執事と並んでノエルの姿もありました。
 羊執事はもう自力で歩けるまでに回復しています。なんとタフなことでしょう。
 魔女がその頭を一撫でしますと、ウール百パーセントの毛並みもモフンッと元通りになりました。
 ビリビリの礼服を着替えに行く彼を見送り、魔女はギュスターヴに向き直ります。