「それはそうと、魔王様。そろそろ嫁取りをなさってはいかがでしょうか。あそこにいるクラーラは、少々跳ねっ返りではございますが、母親譲りのいい体をしております。きっと、魔王様にも気に入っていただけるかと」
「現族長の一人娘を私に差し出そうというのか。次の族長はどうするつもりだ」
「それについてはご心配なく。ウルスラが男児を生みましたでしょう。あれを、我らの手でドラゴンとして育てますゆえ」
「……庶子の上に混血でも、男だというだけで族長に据えるつもりとはな」

 魔族達が誰を族長に据えようと、魔王が口を出すことはない。
 人狼族のように血で血を洗うことが起きようと、これまで関与することはなかった。
 ただし……

「貴様らにとって、あの姫は魔王への献上品としての価値しかないのか」
「女にとってはこの上ない栄誉でございましょう。人間の少女などより、きっと魔王様もお気に召し……」

 ここで、ギュスターヴはアヴィスからドラゴン族の長老へと視線を戻した。
 そのあまりの冷たさに、ひっ、とドラゴン族の長老が喉の奥で悲鳴を上げる。
 彼はドラゴン族の長老の中の長老──つまり、ドラゴン族の中で一番年を食っていて、一番威張り散らして、一番嫌われている老害の頂点。
 それを一瞥するだけで小さくしてしまった魔王は、感情の見えない声で続けた。 

「あの姫は、先日の魔界幹部会議において、族長代理を堂々と務めて見せたぞ。いささか直情的ではあるが、度胸は十分だろう。貴様らは、何を以てあれが次の族長にふさわしくないと言うのだ」
「そ、それは……」

 自分達が認めていないクラーラが、魔王から評価されたことに、ドラゴン族の長老達は戸惑う。
 人狼族の集落で、ルーが魔王から目をかけられているのを目の当たりにした人狼達と同じだった。
 違うのは、人狼達がそれをきっかけにルーを見直し始めるのに対し、ドラゴン族の長老達には意識改革をする気概など皆無だということだ。
 彼らと話し合うのは時間の無駄だと判断したギュスターヴは、こう吐き捨てて背中を向けようとした。

「同族の娘の価値さえわからぬ貴様らに、アヴィスの価値を語られるいわれはない」


 その時だった。


 長老達の股間が──爆発した。