「見ろ、ノエル。マトンの丸焼きがあるぞ」
「いや、食肉扱いするのやめましょ。ウルスラの執事ですよね、これ。魔王様も顔見知りのはずですよ」
「私にジンギスカンの知り合いはいないが」
「薄切りにしないであげてください。まだ、生きておりますから」

 とかなんとか言い合いながら、ギュスターヴとノエルが黒焦げになって地面に転がっていた羊執事をツンツンする。
 突然の魔王の登場に固まっていたドラゴン族の長老達は、ここでようやく我に返った。
 うち一匹が、思わずといった様子で口を開く。

「ま、魔王様の子、というのは……近頃側に置いていらっしゃると噂の、人間の小娘のことでしょうか?」

 その瞬間──空気が、凍った。

 ギュスターヴは、今し方発言をしたドラゴン族に視線をやり、静かな、しかしとてつもなく冷ややかな声で言う。

「小娘というのはな、少女を嘲って言う言葉だ。貴様──私の前で私の子を嘲るとは、いい度胸ではないか」
「そ、そんなつもりは……」
「では、どんなつもりだ。どういう了見で私の子を小娘呼ばわりした。言ってみろ」
「そ、そそ、それは、その……」

 普段から女性を下に見ているドラゴン族の長老達にとっては、魔王の寵愛を受けるアヴィスでさえ取るに足らない存在だった。
 しかし、馬鹿正直にそう告げたとたん、自身の首が胴から離れそうなことくらいは想像がつく。
 アヴィスを小娘呼ばわりしたドラゴン族は、盛大に目を泳がせつつ言い訳を探す。
 彼自身にも、彼の申し開きにも、元より微塵も興味がなかったギュスターヴは、さっさと視線を移した。
 その先にいたのは、もちろんアヴィスなのだが……

「魔女の子とつるんでいたのだから、アヴィスが魔女の家にいたとしても不思議ではないが……」
「ドラゴン族の姫まで一緒ですねぇ。どういう状況でしょうか」

 魔王の視線を辿って、魔女の屋敷の窓に目をやったドラゴン族の長老達も、ここでようやくクラーラの存在に気づく。
 とたん、さっき発言したのとは別の者が、揉み手をしながら進み出た。