「父の血を引く男児がほしいんだよ。あいつらは、私が次の族長になるのが気に入らないんだ。私が──女だから……」
 
 力の強い者が長となる人狼族とは違い、ドラゴン族は初代の長の血筋が代々族長を務めているそうです。
 そんな中でも、現在最も強いドラゴンは、族長であるクラーラの父親に他なりません。
 ただ、ドラゴン族は長幼の序を重んじる傾向にあり、族長といえど長老達の意見を無視できないというのです。

「長老達は女の私しか産まなかった母を散々こけにしてきた。父に他のドラゴン族の女を宛てがおうとしたことだって、これまで何度もあったんだ。父はずっと、これには乗らなかったというのに……」

 クラーラは言葉を切って、魔女に恨みがましげな目を向けます。
 とにかく、どういう心境の変化なのか、クラーラの父親は魔女との間に子供を作ってしまいました。
 その子が男児であったため、長老達は娘のクラーラではなく、クリスを次期族長に据えようと目論んでいるというのです。

「ですが、さっき町で会ったドラゴンさん達は、クラーラを認めていらっしゃいましたよね?」
「あいつらのような若い世代は、威張り散らすばかりの長老達に嫌気が差しているからね。表立って女を下に見たがるのは、ドラゴン族でももう長老達くらいだよ」

 そうこうしているうちに、ドラゴン族が火を吹いて、羊執事は黒焦げになってしまいました。
 死んではいないようですが、残念ながら彼はここで戦線離脱です。
 ドラゴン族の長老達も無傷ではありませんでしたが、ついに魔女の屋敷の扉に手を掛けようとしました。
 同胞の悪行に責任を感じてか、クラーラが飛び出していこうとしますが、魔女がその腕を掴んで止めます。
 同じく、剣を抜いて飛び出そうとしたヒヨコも彼女に止められました。

「私が相手をしようかと思ったけれど……」

 魔女はそう呟き、壁掛け時計に視線をやります。
 長針は、あとわずかで真上を──短針は、もうほぼ五の数字を指しておりました。
 それを確認した魔女は、私に向かって満面の笑みを浮かべます。