その時でした。
 居間の扉の前に控えていた羊執事が突如ムキムキになりました。
 ウール百パーセントの下は、筋肉二百パーセントどころではなかったようで、礼服がビリビリに破けております。
 そんな、とても来客を迎えるとは思えない姿で、彼は居間を飛び出して行ってしまいました。

「どうやら、招かれざる客が来たようだね」

 魔女はそう呟いて、窓辺に寄ります。
 私もヒヨコも、クラーラとクリスもそれに倣いました。
 居間の窓からは、ちょうど屋敷の玄関が見えました。
 ムキムキになった羊執事が飛び出してきて、魔女の言う〝招かれざる客〟と対峙します。
 招かれざる客は、総勢五名。
 それぞれ、頭から二本の角を生やし、体は鱗に覆われています。長い尻尾とクラーラやクリスの背にあるのと同じ、コウモリに似た翼を持つ魔物──ドラゴン族でした。

「あら、またドラゴン族ですか? クラーラの説得を受け入れて、引き上げたと思っておりましたのに……」
「──違う。あれは、さっき町中で会った奴らじゃない」

 魔女の家を訪ねてきたのは、ハーピーに売りつけられた刺股でクリスを襲おうとした連中とは別の集団のようです。
 私にはドラゴン族の見分けがつきませんが、クラーラはもちろん、魔女も彼らに心当たりがあるようでした。

「ドラゴン族の長老達、だね。クリストファーを攫いにきたのだろうよ。よこせよこせとうるさいのを、ずっと無視していたんだが……業を煮やして実力行使に出ることにしたらしい」
「まあ、クリスを攫うつもりなのですか? それならば、さっきまでのように、クリスが外を出歩いている時の方が攫いやすいかったでしょうに」

 不思議がる私に、魔女は笑って言います。

「攫っても、私がすぐに取り返しにくるとわかっているからだろう。ならいっそ、私を始末してからクリストファーを手に入れようということになったんだね」

 クラーラは愕然とした様子で窓の外の同胞達を見つめています。
 ドラゴン族の長老達は、羊執事に何やら訴えているようでしたが、早々に交渉決裂したようです。
 取っ組み合いが始まってしまいました。
 一対五では分が悪かろうと思いましたが、意外や意外。
 羊執事が善戦。凄まじい張り手でドラゴンおじいちゃん達を押し戻しております。
 これは強い! 羊さん、強いです!
 ドスコイ! ドスコイ! とは、どういう掛け声でしょうか?

「あの方達は、どうしてクリスがほしいのですか?」

 私がそう魔女に問いますと、答えたのはクラーラでした。