クリスを抱き上げて手招きする魔女に、クラーラとヒヨコの手を引いて私も続きました。
 なお、羊執事は玄関扉を背に腕組みをして立っております。
 主人の持てなしを拒否する無礼な客は許さないということでしょうか。
 帰りたければ我の屍を越えてゆけ、とでも言いたげな形相です。
 魔女は、客間ではなく、広い居間に私達を通しました。
 羊執事以外に使用人はいないらしく、魔女が自らお茶を淹れ、焼き菓子を出してくれます。
 向かいの席でクリスがそれをもりもりと食べ始める中、私やヒヨコと横並びに座ったクラーラは無言のままカップを睨みつけています。
 クリスの隣に腰を下ろした魔女は、苦笑いを浮かべて口を開きました。
 
「毒なんて入っちゃいないよ、クラーラ姫。怖がらずにおあがり」
「こ、怖がってなんかないわよ! ばかにしないでちょうだい!」

 まんまと魔女の挑発に乗せられたクラーラが、勢いよくカップを掴みます。
 くすりと笑った魔女は続いて、お茶にもお菓子にも手をつける素振りもない私とヒヨコをまじまじと眺めました。

「そういえば……アヴィスが何も口にしたがらない、と魔王が悩んでいたねぇ。また、私の精気をあげようか?」
「せっかくですが、けっこうです。あなたに精気をいただいてしまうと、後々ギュスターヴに倍の量の精気を飲まされてしまいますので」

 魔王の精気はくどいので、たまったものではありません。
 そう言う私に声を立てて笑った魔女は、次にヒヨコに視線を移しました。

「では、そっちの死人の子にあげようか。私の精気をもってすれば、損傷した顔面も元通りになるよ」

 とたん、ヒヨコはブンブンと首を横に振ると、縋るように私の袖を握ってきました。
 ドラゴンも人狼もスパスパ切ってしまうほど強い彼に頼られたのだと思うと、なんとも誇らしい気持ちになりますね。
 自己肯定感爆上がりです。
 私はヒヨコの頭をフード越しになでなですると、魔女に向かって毅然と言い放ちました。

「ヒヨコにも、いただかなくてけっこうです」
「おや、その子の元の顔を見てみたくないのかい? それに、会話ができないと不便だろう?」
「顔がなくともヒヨコは可愛いですし、口がきけずとも彼が何を考えているのかは大体わかります。何より、本人が望まないことを強いるつもりはありません」
「ふふ、そうかい」

 あと、私以外がヒヨコに影響を及ぼすのは、なんとなく気分がよくないのです。
 ヒヨコに精気を与える必要がある時がきたら、絶対に自分のものを分け与えたいです。
 そんな思いを吐露する代わりに、私はここに来た当初の目的を口にしました。