「アヴィス、おなかすいたー」
「ちょっと待ってくださいね、クリス。あとで、クモンベルトのお店でタコ焼きを買いましょう」

 私に殴られて新たな性癖に目覚めたクモンベルトは、クモンスキーと同じくこの城下町の一角でタコ焼き屋さんをやっています。
 お団子といい丸いものばかりですが、足が多いクモはたこ焼きを作るのにも適しているでしょう。
 タコ焼き! タコ焼き! とウキウキし始めたクリスとは裏腹に、ドラゴン族達のどシリアスなやりとりは続きます。

「族長の跡継ぎもおひいだけだ! そんなガキ……仲間としても認められんっ!!」

 魔女との混血である上、婚外子なクリスに対し、ドラゴン族のヘイトは凄まじいものでした。
 クラーラも、十日前に会った際には魔女への憎悪を滾らせておりましたが、今は必死にそれを押さえ込んでいるように見えます。
 同行した仲間を死なせてしまったばかりか、魔王の不興を買って危うくドラゴン族ごと滅ぼされかけたことが、相当こたえたのでしょう。
 あの時、ヒヨコを口汚く罵り、私に掴み掛からんとしたのと同一人物とは思えないほど、クラーラは落ち着いた声で言いました。

「この子供を仲間と認めなくてもいい。ただ、手を出すな」
「だがっ……」
「こいつのためじゃない。ドラゴン族を……お前達を失いたくないから、言っているんだ。頼む、聞き分けてくれ」
「お、おひい……」

 クラーラは人望がある姫なのでしょう。
 彼女の真摯な説得により、熱り立っていたドラゴン族達も矛を収める気になったようです。
 張り詰めていた空気が緩んで、ヒヨコが双剣を鞘に戻しました。
 ちらりと振り返ってそれを見届けたクラーラは、安堵したみたいなため息を吐きます。
 この場で一番強いのがヒヨコであることを、賢明にも察しているように見えました。
 再びドラゴン族に向き直って、彼女が問います。

「ところでお前達……そんな刺股、どこから持ってきたの?」

 ドラゴン族は、屈強な体そのものや口から吐く炎が武器ですので、剣だって滅多に使わないそうです。
 そんな彼らに、素手でクリスと接触するのは危険だからコレを使え、と刺股を勧めたものがいました。

「ハーピーの長が、売りつけてきた……ミスリル製だと言って」
「ビアンカか! あの、鳥女っ……!!」

 ハーピーというのは確か、魔鳥族のことだったと思います。
 そういえば、十日前の幹部会議で、クラーラと魔女の間に鳥っぽい女の魔物が座っていましたが、あの場にいたということは彼女が族長なのでしょうか。
 クラーラは刺股を回収させると、ドラゴン族達を帰しました。
 一人残った彼女は、肩が上下するくらい大きなため息を吐きます。
 それから、意を決したみたいに私達の方を振り返ると……