「何やら企んでいるとは思っていたが……この、大バカ者どもっ! 勝手なことをするなっ!!」


 自身の倍以上はあろうかというドラゴン族を、私と同じ年頃に見える女の子が殴りつけました。
 リーダーらしき、一際大きなやつをです。
 女の子──ドラゴン族の姫クラーラは、刺股を持っていたドラゴン族も蹴り飛ばし、クリスを引っ張り起こして私達の方へ突き飛ばしました。
 この時、私は驚きを隠せませんでした。
 だって、クラーラが──十日前、ギュスターヴの右手が吹っ飛ぶ瞬間を目の当たりにしたはずの彼女が、何の躊躇もなくクリスに触れたのですから。
 
「わあーん、アヴィスー!」
「クリス、よかった……怪我はありませんね?」

 転がるようにして、クリスが駆けてきました。
 彼を抱き上げた私を背に隠しつつ、ヒヨコが双剣を構えます。
 そんな私達の前にはクラーラが立ち塞がり、同胞達に対峙しておりました。
 ドラゴンそのものの姿をしている男性に対し、ドラゴン族の女性はクラーラみたいにしっぽや翼はあるものの人間に近い姿をしている者が多いといいます。
 リーダーらしきドラゴン族は、殴られたこと自体にこたえた様子はありませんでしたが、クラーラが私達を──クリスを庇うのは納得できないようでした。

「おひい! なんで、そいつを庇うんだ! そいつに関わったばかりに、俺達の兄弟はっ……」
「その兄弟が、どんな状態になって戻ってきたのか、忘れたのか! 万が一こいつらを傷つけてみろ! ドラゴン族は、魔王様と魔女によってたちまち滅ぼされるぞっ!!」

 なるほど、合点がいきました。
 この場にいるのは、十日前にクリスを襲撃したドラゴン族達の兄弟なのですね。
 彼らに直接手を下したのはヒヨコなのですが、ドラゴン族の怒りの矛先はそのきっかけであるクリスに向いているようです。
 クラーラが私達の方を振り返り、一瞬目を鋭くします。
 けれども、すぐに顔を正面に戻すと、声のトーンを落として続けました。

「お前達の無念は、わかる。けれど、私はもう、仲間を失いたくないんだ」
「魔王様の子には手は出さん! だが、そのガキ……不義の子だけは、見過ごせねぇ!」
「不義の子だろうと、父上が認知してしまった以上、これもドラゴン族の一員だ。族長の娘として、同族殺しは許可できない」
「何が認知だっ! 族長の子は、おひいだけだっ!!」

 リーダーらしきドラゴン族の咆哮に、他の五匹もそーだそーだと口々に同意します。
 何やら、どシリアスな展開になって参りましたので、私達は空気を読んで口は閉じておきましょう。
 それにしましても、さっきの人狼族といい、魔物の社会も一枚岩とはいかないようですね。
 陰謀渦巻くグリュン王国の王宮を思い出し、少しばかり懐かしくなってしまいました。