「クリスは私のお友達ですよ。置いてなんていくわけがありません。さっさとその子を解放してください」
「アヴィスー!」

 草むらに押さえ込まれたクリスが、嬉しそうに私の名を呼びました。
 私は腰のリボンからモンコツこと門番の大腿骨を引き抜き、一歩前に出ます。
 とたん、ドラゴン族達がざわりとしました。
 なんだ、こいつ! まさか、強いのか!? 的な目で見られてちょっといい気分になりましたが……残念ながら、私のはったりつよつよタイムは十秒足らずで終了です。
 ヒヨコにとっとと背後に押しやられてしまいました。
 シャッと音を立てて、ヒヨコが双剣を抜きます。
 その頼もしい背中から顔を覗かせ、私は肩透かしを食らったような顔をしているドラゴン族達に向かって言いました。


「私の戦闘力がゴミだろうと問題ありません──だって、私のヒヨコはとっても強いんですもの」


 たちまちヒヨコの全身に覇気が漲り、ドラゴン族達が怯みました。
 体格ではドラゴン族に到底敵わないですし、そもそも六対一なのですからヒヨコの方が圧倒的に不利です。
 それなのに──私は、彼が無双する未来がすでに見えた気さえしました。
 勇者とやらの下でどんな修行をしてきたのかは知りませんが、魔王も認めるその強さは伊達ではありませんよ。
 きっと、あっという間にドラゴン頭のトーテンポールができあがる──そう、確信した時です。


「──お前達、バカな真似はやめろっ!!」


 そんな叫び声とともに、突如空から何者かが降ってきました。
 私とそう変わらない年頃に見える、女の子です。
 燃えるような赤い髪の間から二本の角が生え、鱗に覆われた長い尻尾とコウモリみたいな翼を持っていました。
 彼女には見覚えがあります。

「クラーラ、でしたっけ?」

 十日前に行われた魔王城での幹部会議に、族長代理として出席していたドラゴン族の姫でした。