隣でお団子を頬張っていたはずのクリスが、いつの間にかずっと離れた場所にいたのです。
 町を散策するのはこれが初めてらしい彼は、何に対しても興味津々でした。
 ただし、モンペ魔女によってえげつない呪いを付与されているものですから、町中を爆弾が歩いているのと同じです。
 呪いは比較的軽度な悪意でも発動してしまうため、クリスを放っておくと周囲は容易く血みどろになるでしょう。
 大惨事になるのを回避するため、私はヒヨコとともに慌てて彼を追い掛けました。
 ヒヨコ一人の方が早く追いつけるでしょうが、私は彼をクリスに触れさせたくないのです。
 ヒヨコは、私以外には基本的に無関心ですが、私に害を及ぼす相手にはとたんに好戦的になります。
 クリスの自由な行動が私を煩わせていると彼が判断した場合、全く害意を抱かないとは言い切れないのです。

「ヒヨコが木っ端微塵になるのは、絶対に嫌ですからね。あなたには、ずっと側にいてもらいたいですもの」

 走りながら言う私の横で、ヒヨコがこくこくと頷きます。
 深く被ったフードのせい……いえ、そもそも顔面がひどく損傷しているため表情はわかりませんが、彼が嬉しそうなのは伝わってきました。
 そうこうしているうちに、何かを見つけたらしいクリスが細い路地に入っていってしまいます。
 一列にならないと通れない幅のそこに、私はヒヨコに先導されて飛び込みました。

「クリス、待ってください!」

 薄暗い路地の先は開けているらしく、光が溢れていました。
 私の制止も虚しく、クリスの小さな背中はその光の中へと消えてしまいます。
 時を置かず、ギャッ、と小さな悲鳴が聞こえてきました。

「クリス──!?」

 私とヒヨコは一気に路地を駆け抜け──目に飛び込んできた光景に、はっと息を呑みます。
 そこは、四方を石造りの建物で囲まれた広場になっていました。
 真上からたっぷりと光が入るおかげか、植物が青々と茂っています。