『ヘイヘイ!』



 くたびれたおじさんケンタウロスの声とともに、決済が終了します。
 買ったのは、作りたてのお団子でした。
 白くて丸いお団子を四つ串に刺し、甘辛いタレを絡めています。

「アヴィス、ありがとっ!」
「どういたしまして、クリス」

 私もヒヨコも飲食に興味がありませんが、クリスがおいしそうに食べている姿を見ると和みます。
 クリスは無一文なものの、私のヘイヘイアプリがあるので問題はありません。
 魔界幹部達がこぞってチャージしてくれたおかげで、残高がどえらい額になっていますし。
 モチモチのほっぺにモチモチのお団子を頬張ってモチモチ咀嚼しているクリスをほのぼのと眺めていますと、お団子屋の中から声がかかりました。

「アヴィちゃんはー、相変わらず何も食べないで大丈夫なわけ?」
「精気はいただいているので問題ありませんよ──クモンスキー」

 お団子屋の店長は、びっしりと毛が生えた足が八本もある、クモの魔物です。
 ギュスターヴに成敗されたらしいクモ美の元恋人ですが、実は何股もかけられていたことを知って敵討ちをやめ、今はクモ江という新しい恋人と幸せに暮らしています。
 城下町の大通り沿いに店を構える、老舗お団子屋の後継らしいクモンスキーと、私は相互フォロワーの関係にありました。
 リアルよりもネット上で絡むことの方が多いのですが、せっかく町へ出たのでこうして店を訪ねてみたのです。

「そだ、アヴィちゃん。来月結婚式すんだけどー、出席してくんない?」
「クモ江さんと? 出会って一月余りでもう結婚を決めたのですか?」
「オレ達ってー、魔物の中じゃ短命な方なわけ。やっぱ、スピーディーに生きないとさー」
「そうですか……いえ、おめでとうございます。喜んで出席させていただきます」

 両家親族全員クモですので、私は絶対に浮いてしまうでしょう。
 八本足のドレスをギュスターヴにおねだりしてみましょうか。

「それにしましても……足が八本もあると、便利ですね」

 お団子を捏ねる、串に刺す、炙る、タレを塗る、箱詰めする、会計をする、が一度にできてしまうんですもの。
 しかし、私がクモンスキーの仕事ぶりに見惚れていますと、ヒヨコが慌てた様子で袖を引いてきました。

「ヒヨコ、どうかし……あらら、クリスがあんなところに!」