ギュスターヴに抱っこされているのをいいことに、その上着の胸元に手を突っ込みます。
 ノエルとジゼルも、おや? と眉を上げました。

「アヴィス? いきなりお父さんの胸をまさぐってどうした? あいにく、乳は出な……ん? お前、何を探しているんだ?」
「ギュスターヴが持っている魔法のカードがほしいです」
「魔法のカード、ですか?」
「まあまあ、そんなメルヘンチックなもの、魔王様はお持ちではないでしょう?」
「いいえ、私は知っているんですよ。なんでも買える黒いやつ、持っているでしょう?」

 クレジットカードのことかい! と魔王と元天使と吸血鬼が口を揃えました。仲良しですね。
 あれは子供がおもちゃにしていいものではない、とかなんとかうるさいです。
 おもちゃにする気なんてありませんのに、失礼しちゃいます。
 私の手をギュスターヴの胸元から引っこ抜いたノエルが、頭をなでなでしながら諭してきます。
 ジゼルは彼の肩から私の肩に飛び移りました。
  
「先日、携帯端末にヘイヘイアプリを入れてあげたでしょう? それで買い物しなさい」
「いやです。あれ、決済するたびに知らないおじさんの声でヘイヘイ言いますもの。あの覇気のない声、いったい誰のなんですか」
「キロンが開発したのですから、キロンの声なのではないかしら?」
「知らないおじさんの声が、くたびれたおじさんケンタウロスの声だと判明したころで、何らおもしろくありません」
「確かに、おもしろくはないな」

 ギュスターヴが小さく笑って、私に同意します。
 彼は自身の携帯端末を取り出して、何やら操作し始めました。
 人狼族は、完全に置いてけぼりです。
 私は結局、魔王のカードを奪うことは叶いませんでしたが……

「お父さんがたっぷりチャージしてやったから、それで何でも好きな物を買いなさい」
「アヴィス、私も送金しておいてあげましょうね」
「わたくしも差し上げますわ。充実した生活こそ、いい血を育みますのよ」
「あっ、オレも! アヴィス、オレもしてあげるねっ!」

 怒りを鎮火させることには成功しました。
 ノエルもジゼルも、当事者であるルーさえも、血みどろの光景が目に入っていないかのように、和気藹々としています。
 ヒヨコとクリスも、それを平然と眺めていました。
 人狼族だけが、ポカンと間抜け顔を晒しています。
 私は私で、途中で飽きて放置していたアンガーマネジメント講座の続きを受けてみる気になりました。

 無料キャンペーン終了まで、あと二月ほど。
 余裕ですね、きっと。