集落に到着すると同時に大乱闘に巻き込まれ、無力な私はヒヨコによって、人狼達の牙や爪だけではなく血飛沫からも守られておりました。
 人狼族のいざこざはどうでもいいですが、それでモフモフが損なわれるのは看過できません。
 手っ取り早くラスボスに収めてもらおうというのは、我ながら妙案だと思いました。
 しかし、なかなか電話に出なかったギュスターヴに文句を言っている最中、思わぬ悲劇が起きます。
 大人達が起こした騒ぎに驚き逃げ惑っていた件の子狼が、私の足にぶつかってすっ転んだのです。
 コロコロしているので、それはもうコロコロとよく転がります。
 私はとっさに助けようと手を伸ばしたのですが──軽率でした。
 混乱し、怯え切っていた子狼は、見ず知らずの私に触れられたことで、余計にパニックに陥ってしまいます。
 がむしゃらに暴れて私の手から逃れようとして、ついついガブッとやってしまったのでしょう。

「狼は、噛むものです。それを失念していた私の落ち度でした」

 子狼に剣を向けようとしたヒヨコを、私はそう言って制しました。
 従順で聞き分けのいい彼は、私に子狼を責めるつもりがないとわかると、あっさり剣を引いてくれました。
 しかし、ギュスターヴは──自称〝アヴィスのお父さん〟はそうはいきません。

「アヴィスが許そうとも、私が許さん」

 大人げないったらありませんね。
 なんといっても魔王ですから、慈悲深くも倫理的でもありません。
 やると決めたなら、相手が年端もいかない子狼だからという理由で、温情を与えることはないでしょう。
 これはある意味、公平なのかもしれませんが……

「アヴィスを噛んだやつだけ差し出せ。他の者の扱いには、私は関与しない」

 ここに来て、私は人狼族の有様に感心しておりました。
 おそらく今この場にいるほとんどの人狼は、私を噛んだのが誰なのかを知っているでしょう。
 それなのに、激おこの魔王を前にしても、保身のために子狼を差し出そうとする者は一人もいなかったのです。
 狼は群れで暮らすと言いますから、元々連帯感が強いのでしょうか。
 とにかく、人狼族に対する好感度が爆上がりした私は、この緊迫の状況を打破することにしました。