「私の子を噛んだのは、どいつだ」


 ──血を流したな?
 
 その問いに対して答えを返さないうちに、ギュスターヴはやってきました。
 指摘された通り、私は彼との通話中に傷を負い、右の前腕から流血しております。
 おかげで、現在地を伝える手間が省けましたね。
 この自称〝アヴィスのお父さん〟は、たった一滴でも私が血を流すとやってきてしまうのですから。
 今回の傷は、噛まれてできたものでした。

「ジゼル、離れろ」
「いやですわぁ!」

 なお、傷口にはギュスターヴとほぼ同時にやってきた吸血鬼ジゼル──どピンクのコウモリが張り付いております。
 私の血が大好きらしい彼女も、流血に気づいて飛んできたようです。
 眉を撥ね上げたギュスターヴはジゼルを引き剥がしますと、私を軽々抱き上げます。
 そうして、無言のまま唇を塞いできました。
 ドッと流し込まれた精気は相変わらずくどいですが、効果は覿面。
 牙が突き刺さってできた四つの穴は、たちどころに塞がります。
 その光景を目にしたクリスは、ヒヨコの隣で何やら口を尖らせておりました。

「やれやれ、あなたは本当によく怪我をしますね。危機感が乏しいのは、やはり痛覚がないせいでしょうか」

 ギュスターヴにくっついてきていたノエルが小言を言いつつ、懐から出したハンカチで血の汚れを拭おうとします。
 もったいないいい! とジゼルが泣き叫んで抵抗しておりますが……なるほど、これがギュスターヴが以前言っていた〝もったいないおばけ〟とかいうヤツですね。おぞましいです。
 そんな元天使と吸血鬼の攻防を横目に、私を抱いたままのギュスターヴが吐いたのが、冒頭のセリフでした。