「アヴィスからだ」

 ギュスターヴは一瞬にして、魔王の顔からお父さんの顔になった。
 無許可のため本人に知られてはならないが、着信画像にはアヴィスの寝顔を設定している。
 今の今まで、不貞夫のアレを問答無用で異世界に送りつけると息巻いていた口からは、一転して我が子への愛情が溢れ出した。

「見てみろ、ノエル。私の子がこんなにもかわいい」
「ええ、ええ、可愛いですね。早く出てあげてください」

 なお、最近ママ友になったばかりの魔女からもラインが来ていたが、魔王は既読無視をした。
 電話は鳴り続けている。
 通話ボタンをタップしようとしたギュスターヴは、はっとした顔をした。

「よくよく考えてみたら、アヴィスからかけてきたのはこれが初めてではないか?」
「おや、そうでしたっけ?」
「何だか緊張してきた」
「いや、早く出てあげなさいってば」

 呆れ顔の側近に急かされ、魔王はようやく通話ボタンをタップした。



『遅い。どうしてワンコールで出ないんです』



 拗ねたようなアヴィスの声が聞こえてきて、魔王は堕天使と顔を見合わせる。
 携帯端末の向こうは、ワンワンキャンキャンと何やら騒がしかった。