ともあれ、件のクッキー缶は私のものとなりました。
 私はそれを両腕でぎゅっと抱き締め、声を弾ませます。

「うれしい! ありがとうございます、ギュスターヴ!」
「くっ……今の見たか、ノエル。私の子がこんなにもかわいい」
「ええ、ええ、可愛いですね。いくらでも貢ぎたくなっちゃいます」

 魔王と元天使が親バカ全開なのは、今に始まったことではないのでスルーします。
 ヒヨコに缶を支えてもらいながらいそいそと蓋を開ければ、中にはぎっしりとクッキーが詰め込まれておりました。
 大きさも趣も様々で目にも楽しいそれをひとしきり眺めてから、ほのぼのとした様子で私を見守っている自称保護者達に差し出します。

「ギュスターヴ、ノエル──どうぞ」
「アヴィス、お前……あれほど欲したものを人にあげられるのか。お父さんは感動した」
「生後一月でもうここまで社会性が発達したんですね。私も感動しました」

 魔王と元天使がおかしなことを言い出すのも、今に始まったことではないのでスルーしましょう。

「そういうのいいですから、とっとと食べてください。全部」
「「……全部?」」
「はい。ほしいのは、缶だけですので」
「「アヴィス……」」

 魔王と元天使がそろって頭を抱えました。仲良しですね。
 一向に食事をしない私がクッキーを食べる気になったと思い違いをしていたようですが、知ったことではありません。
 なお、隣にいるヒヨコも屍の体ですので、基本的には飲食を必要としません。
 以前、一緒にタピオカを飲みにいったのですから、食べられないことはないようですが、少なくとも私と同じくらいは飲食に関して消極的です。
 閑話休題。