「吸血鬼でもなんでも、いいのです。生きてさえ、いてくださるなら……」

 この発言に嘘はない。
 毒殺されながらも新たな器に魂を押し込められ、色違いになって戻ってきた妹アヴィスを受け入れたように、グラウはどんなエミールも肯定するだろう。
 吸血鬼になろうと、化け物になろうと──あるいは、さきほど魔界で相見えた双剣使いのような、屍になろうとも。

「陛下……エミール、お願いです。どうか、生きて……」
「──生きるよ。心配しなくても、そう簡単に死んでやるものか」

 エミールはきっぱりと言い放ち、執拗に口元を拭ってくる手を振り払う。
 ところが今度はその手を捕まえられ、強い力で握り締められてしまった。
 エミールが痛みで顔を顰めるのも気にせず、グラウはそれを胸にかき抱く。
 そうして、よかった、よかった、と呟きながらまた涙を溢れさせるのだった。

「はあ……」

 深い深いため息が、エミールの口からこぼれ出す。
 血の味やにおいが喉の奥と鼻腔にこびりついたままで、気分は最悪だった。
 声もなく泣き続ける十も年上の男を昏い目で眺め、絞り出すように言う。

「僕は、死なない。死なないよ。だから……まだもう少しだけ、正気のふりをしていてよ」

 エミールは、知っている。
 グラウはもう、ずっと昔から狂い始めていた。
 十年前──彼やアヴィスの両親と、エミールの母親が亡くなった、あの日から。
 そして、最愛の妹アヴィスの死によって、絶望的になった。
 それでも──



「狂っていてもいいよ。一緒に、アヴィスを取り返そう──ねえ、にいさん?」