「……っ、くそ! あいつ、なんでアヴィスと……」
「ア、アヴィス……アヴィス……」

 アヴィスの名を耳にしたとたん、されるがままだったグラウがのろのろと顔を上げる。
 緑色の瞳は虚空を見つめ、うわ言のように妹の名を繰り返し始めた。

「アヴィス……アヴィスアヴィスアヴィス……わたしの、妹……あの子は、どこに……」
「グラウ……」
「そう……そうだ、土の下だ……私が棺に収めて、私が土の下に埋めたんだ……」
「ちょっと、グラウ」
「あ、ああ……あああ、あの子の体は! 腐って! 虫に食われて! もうっ……」
「──グラウ!」

 輝きを失ったグラウの両目からぼろぼろと涙が溢れ出す。
 そうして、糸が切れた操り人形みたいに膝から崩れ落ちた。
 エミールはちっと舌打ちをすると、病み上がりの体を叱咤してベッドから飛び降り、グラウの胸ぐらを掴む。
 そうして、その頬を渾身の力で殴りつけた。

「ぐっ……!」

 本来なら、歳のわりには華奢で少年っぽさを残すエミールに殴られたくらいでは、騎士団長として鍛え抜いたグラウはびくともしなかっただろう。
 けれどもこの時はあっけなく床にひっくり返り、そのまま起き上がることもままならなかった。
 エミールはそんな年上の忠臣に馬乗りになり、再び胸ぐらを掴んで叫ぶ。