「いやぁあああ!!」


 耳をつんざくような悲鳴を上げ、足下にへたりこんでいたドラゴン娘が飛び上がりました。
 彼女はそのまま、他にも同行していたらしい従卒のドラゴンとともに、同胞の遺骸を抱えて魔王城から逃げ出します。
 まさしく這う這うの体といった姿に、魔女を含めた会議室にいた面々は苦笑いを浮かべました。
 その他の観衆はドン引きです。
 ズサササッ、と音を立てて一気に後退りました。
 なにしろ、魔女の呪いがはったりではないことを、魔界の頂点が証明してしまったのですから。
 クリスに触れたギュスターヴの右手が弾け飛ぶ瞬間を、この場に居合わせた全ての者が目撃したのです。
 取り分け間近で目の当たりにした私は、とっさに彼の首筋にしがみつきました。
 シャッ、と近くで鞘走る音が聞こえます。
 ヒヨコが剣を抜いたと私が悟るのと、しがみついた首筋の奥で声帯が震えるのは同時でした。

「──やめろ。貴様が木っ端微塵になれば、アヴィスが悲しむ」
「……」

 ヒヨコはしばし逡巡する気配がありましたが、ほどなくチンと剣を鞘に戻す音が響きます。
 ギュスターヴの喉が、吐息のような笑いで震えました。

「安心しろ。私の目の黒いうちは、アヴィスを嫁になど出さん」

 何やら勝手なことを言っています。
 ますますしがみつく私の頭を、ギュスターヴがのんきに撫でてきました。
 今しがた弾け飛んだはずの、右手で。