「──あっはっはっ!」


 ふいに、明るい笑い声が響き渡りました。
 幼子とガーゴイルを両脇に抱えて傍観していた魔女のものです。
 周囲の視線を一身に集めた彼女は、くすくすと笑いながら近づいてきました。
 ガーゴイルは残りましたが、幼子の方は魔女の真っ黒いスカートの裾を握ってちょこちょことついてきます。彼らはどういう関係なのか、私はまだ何も知りません。
 幼子を連れた魔女は、地面にへたり込んだままのドラゴン娘の横で立ち止まり、口を開きました。

「命拾いをしたな、クラーラ姫。魔王の子に感謝するといい」
「な、なによ……」
「族長の名代でありながら、お前さんはもう少しで一族を滅すところだったんだ。厭世主義者でもなければ、魔王の逆鱗になんぞ触れるものではないよ」
「……っ」

 ドラゴン娘はぐっと唇を噛み締め、魔女を睨み上げます。
 魔女の提案通りに私に感謝するような素振りもありません。
 とはいえ、私とて別に彼女のためにアンガーマネジメントの話を持ち出したわけではなく、単に講座で習ったことの正否を検証しただけです。
 感謝などされなくても、まったく問題ありません。
 そうこうしているうちに、魔女は幼子を抱き上げてこちらに近づいてきます。
 魔女はギュスターヴほどではないにしろ長身なため、彼女に抱っこされた幼子と私は目線が同じくらいになりました。
 
「末っ子が世話になったね。どうもありがとう、魔王の子」
「どういたしまして。その子はやはり、魔女の方のお子さんなのですか?」
「ああ、そうだよ。私によく似ているだろう?」
「ええ、確かに。あなたに似て可愛らしいですね。それと……」

 幼子は、格好も含めて母親である魔女によく似ていましたが、その背にある翼は足下にへたりこんだままのドラゴン娘のそれとそっくりでした。

「もしかして、複雑なご家庭なんです?」
「もしかしなくとも複雑なご家庭なんだ」

 私がこそこそと耳元に囁くと、ギュスターヴはうんうんと頷きます。
 それを微笑ましそうに眺めていた魔女でしたが、再びドラゴン娘に声をかけました。