「──よくも! よくもうちの者達を殺したわねっ!」

 またしても邪魔が入ります。
 金切り声を上げてヒヨコに襲いかかってきたのは、魔王城の会議室で円卓を囲んでいた連中のうちで、私と同年代に見えた女の子でした。
 赤い髪からは二本の角が生え、鱗がついた長い尻尾とコウモリみたいな翼を持つ彼女がドラゴン族で、ヒヨコが切り捨てた三匹と同族であることはガーゴイルから聞いています。
 ドラゴン娘は鋭い爪でヒヨコの喉を掻っ切ろうとしましたが、彼は難なくそれをかわしつつ双剣を抜きました。
 私も私で、一方的にヒヨコが責められるのは納得がいかないため口を挟みます。
 魔王の腕の中という、超安全圏からですが。

「お待ちください。先に手を出したのは、ドラゴンさん達の方なんですよ? 言うなれば、正当防衛で……」
「薄汚い屍がっ! 誇り高き我らドラゴン族に刃を向けてただで済むと思うなっ!!」
「いや、全然話を聞いてくださらないですね。そもそも、誇り高いという割に、ドラゴンさん達はよってたかって小さな子をいじめて……」
「問答など無用よ! 引き裂いて、魔界魚のエサにしてやるわっ!!」

 本当に、まったくもって聞く耳を持たないんですね。
 すっかり頭に血が上ってしまっている様子のドラゴン娘に呆れたのは私だけではありませんでした。
 堕天使ノエルとケンタウロスのキロンは苦笑いを浮かべ、魔界の門番プルートーと灰色の毛並みをした人狼は顔を見合わせて肩を竦めます。
 対する女性陣──吸血鬼ジゼルと夢魔オランジュ、そして鳥っぽい女の魔物らはニヤニヤと、なんとも底意地の悪そうな笑みを浮かべていました。
 なお、魔王と魔女はドラゴン娘を歯牙にも掛けないつもりか、私に視線を固定しております。
 そんな中、ドラゴン娘が再びヒヨコに襲い掛かろうとする気配を察知した私は、ギュスターヴの腕の中から身を乗り出して言いました。

「ヒヨコは私のものです。よって、彼の行いの責任はすべて私にございます。文句があるのでしたら私におっしゃっていただけませんか」

 すると、ドラゴン娘の視線がヒヨコから私に移ります。
 やっと私の声が届いたようで安心しました。
 角と尻尾と翼がある以外は人間っぽい見た目だと思ったドラゴン娘でしたが、私を見据えた青緑色の瞳は、夜行性の爬虫類みたいな縦長の瞳孔をしています。
 彼女はそれを針みたいにして私に焦点を合わせると、牙を剥き出し叫びました。

「ならば、お前が責任をとって死──」