「──エミールは?」

 泣くという行為はたいへん体力を消耗するものです。
 私はしばらくギュスターヴの肩に頭を預け、マントのふかふかを堪能しながらうだうだしていましたが、ふいにエミールの姿が見えないことに気づいて顔を上げます。
 きょろきょろと首を巡らせて彼を探しておりますと、ニコニコしながら視界に入ってくる者がいました。
 エミールと同じ金色の髪と空色の瞳をした、ノエルです。

「あの霊体の少年でしたら、雨に打たれたのと同時に魔界から去りましたよ。きっと、肉体が回復して魂が戻ったのでしょう」
「そうですか、よかった……」

 堕ちたとはいえ元々は天使だったのですから、人間の魂に関してノエルはプロです。
 その彼が言うのなら、エミールは無事なのでしょう。
 一方ギュスターヴは、ほっと胸を撫で下ろす私を無言で見つめていましたが、ふいに背後を振り返ります。

「──そこの死人」

 魔王の視線に貫かれたヒヨコは、蛇に睨まれたカエルみたいに固まりました。
 しかしギュスターブは、彼の向こうで雨晒しにされた三匹のドラゴンの遺骸を一瞥すると、口の端を吊り上げます。

「ドラゴンの表層は異様に硬く、人間の力ではそう簡単に切れるものではない。それを、よくぞあそこまであっさりとバラしたものだ。貴様、腕を上げたな」

 ヒヨコの修行の成果は、満足のいくものだったようです。
 魔王からのお褒めの言葉に、ヒヨコもどこか誇らしげに見えました。
 彼は私のものなので、こちらも鼻が高いというものです。
 ギュスターヴの肩越しに手招きし、いそいそとやってきたヒヨコの頭をフード越しになでなでしてやりました。
 けれどふと、古木が燃える直前のエミールとのやりとりを思い出します。

「エミールはあなたと面識があるようでしたけれど、どういう関係だったのかしら?」
「……っ」

 たちまち、ヒヨコがビクリと体を震わせました。
 それを不思議に思いつつ質問を重ねようとしましたが……