「おばあさまが……おばあさまが焼けてしまいました。おばあさまの優しい声も、博識でいらっしゃるところも、大好きでしたのに……」
「うむ、そのことだがな」

 するとここで、魔王城の会議室にいた他の面々も庭へとやってくきた。
 そのうちの一人に向かって顎をしゃくり、ギュスターヴが続ける。
 
「そもそも、古木は魔物でも何でもない。お前が老婆だと思ってしゃべっていたやつの正体はな、このケンタウロスだ」
「──うそです! あの方は上品なおばあさまでしたもの! こんなくたびれたおじさんじゃないですものっ!!」
「ぐはっ……」
「キロン、ダメージを食らってないで、ちゃんと説明しろ」

 魔王に急かされておずおずと進み出たのは、下半身が馬で白衣をまとった痩身の中年男、ケンタウロスのキロンだった。
 涙でぐちゃぐちゃになったアヴィスの顔を目の当たりにし、彼まで泣き出しそうな表情になる。なにしろこのケンタウロス、生粋の〝いいひと〟なのだ。
 キロンは罪悪感に押し潰されそうになりながらも、どうにかこうにか語り出す。
 この一月、アヴィスと交流を深めていたのは古木の魔物ではなく、その地下研究所にいた自分である。
 アヴィスが興味津々で話を聞いてくれるのが嬉しくて、毎日会うのを楽しみにしていたこと。
 その一方で、実は老婆ではなくくたびれたおっさんだとばれて幻滅されるのを恐れ、正体を明かせなかった、と。

「お嬢を騙すつもりも、からかう意図もなかったんだ……ええっと〝すまなかったのう〟」
「おばあさまの声、です……」

 古木の老婆の声色を使ったことで、アヴィスもキロンの話を信じる気になったようだ。
 彼女はくすんくすんと鼻を鳴らしながら、気まずそうに背中を丸めた半人半馬と黒焦げの古木を見比べる。
 それから、この場で誰よりも強く誰よりも正しい相手に尋ねた。