「私のせいで、おばあさまが死んでしまう! 私の、私のせいで──!」
「違う。違うんだ、そうじゃない……」

 燃え盛る古木から視線を遮るように、エミールが私の正面に回ります。
 けれど、その金色の髪と空色の瞳を目にしたとたん、私はさらなる絶望の気配に気づきました。

「ぜんぶ……ぜんぶ、わたしのせいです。わたしのせいで、なにもかも、はめつする……」
「アヴィス……?」

 この魂に紐づけられた記憶の奥底から、恐ろしいものが頭をもたげ始めました。
 グルグルと目が回る心地を覚えながら、私の口は絶望を語ります。

「おばあさまがもえたのも、グリュンおうこくがおかしくなったのも」
「アヴィス……?」
「おとうさまやおかあさま……エミールのおかあさまがなくなったのだって──」
「──アヴィス!」

 エミールが、私の言葉を鋭く遮ります。
 その瞬間でした。



 ──ザッ!!



 なんの前触れもなく、魔王城の庭は豪雨に見舞われたのです。
 濃密な水のカーテンが、目の前にいたエミールも、燃え盛る古木の姿も隠してしまいました。
 そんな状況にありながら、しかし私は少しも濡れていません。
 真っ白い毛皮が傘のように頭上を覆っていたからです。

「ギュスターヴ……」

 私を豪雨から守ってくれていたのは、会議室にいたはずの魔王のマント。
 視界は涙でぼやけてしまっていましたが、私を見下ろしたギュスターヴの表情が曇ったのは、なんとなく分かりました。