「お、おばあさまがっ……!」


 ドラゴンが吐き出した火の玉は、魔王城の庭に根を張り聳え立つ古木にぶつかり、瞬く間に大きな炎へと変貌を遂げたのです。

「おばあさまっ! おばあさまが、燃えてしまうっ……!!」

 私はヒヨコの腕の中から抜け出し、幼子を地面に下ろすと、慌てて古木のおばあさまに駆け寄ります。
 火の玉を吐き出したドラゴンにとどめを刺し、ヒヨコが追いかけてきました。
 幼子も、つられたみたいにヨタヨタと続きます。
 その間に、古木はすっかり炎に包まれてしまいました。
 火はすでに樹冠にまで達し、みるみる枝葉が焼け落ちていきます。
 やがてそれは真っ黒い炭になって、雨のように地面へと降り注ぎました。
 バチバチ、と焼けた木の皮が剥がれて収縮する音が響き、辺りには火の粉が舞います。
 この日はまだ一言も言葉を発していない古木のおばあさまでしたが、燃え盛る炎の轟々という音が、まるで断末魔の叫びのように聞こえました。
 私はなすすべもなく、頭を抱えます。 

「わ、私のせいです! 私がドラゴンを怒らせたから……私が、余計なことをしたから……っ!」
「ちょっ、ちょっと落ち着いてよ、アヴィス! 君のせいなんかじゃ……」

 エミールはおろおろと私の周りを飛び回り、ヒヨコは血糊の付いた双剣を携えたまま立ち尽くしています。
 炎に気づいた魔王城の魔物達がわあわあと集まってきて、バケツリレーが始まりました。ガーゴイルもこれに加わります。
 しかしながら、火の勢いがあまりにも強すぎて、焼け石に水といった有様でした。
 私の両目から溢れ出した涙など、当然なんの役にも立ちません。

「おばあさま……おばあさまっ……!!」

 バキバキと音を立てて表皮が剥がれ、空洞になった幹の内部が顕になりました。
 心は絶望に打ちひしがれ、体中の血が凍ったみたいに全身が冷たくなっていきます。
 燃え盛る炎で熱いくらいのはずなのに、私はブルブルと震えていました。