「──魔王様、アヴィスを外に出してもよろしいのですか?」


 アヴィスが魔王城の庭でヒヨコ属性の屍剣士と出会っていた頃である。
 ノックに返答があったのを確かめてから魔王の寝室の扉を開いたのは、部屋の主の側近であるノエルだった。
 その手には、水差しとグラスを載せたトレイを持っている。
 一拍置いて、ベッドの中から寝ぼけたような声が返ってきた。

「……アレは、アヴィスというのか」
「呆れた。あなた、あの子の名前も知らなかったのですか?」
「魂自体には名なんてないんだ。名乗られねば、いかに私とて分からん」
「左様で。それで、もう一度お聞きしますけれど、あの子を城から出してもよろしいのですか?」

 肩を竦める側近の問いに、ようやく身体を起こしたギュスターヴが、銀色の髪を掻き上げながら気怠げな声で答える。
 
「子供は外で遊ぶものだろう」
「子供って……あの子、十八らしいですよ。人間ではもう立派な大人だと思いますけどね」
「子供は子供だ。そもそも、今のアレの身体は私の血肉でできている。並の魔物ではどうこうできまいよ。私の目の届く範囲で遊んでいる分はなんら問題ない」
「そうですか。では、魔界にいる限りは心配ないのですね」

 ノエルは安心したとばかりに微笑むと、グラスに水を注いで差し出す。
 それを受け取って口をつけながら、しかし、とギュスターヴが続けた。