あっはっはっ、と荘厳な魔王城の会議室に不釣り合いな、明るい笑い声が響いている。
 そんな相手を赤い目で一瞥し、ギュスターヴが無感動な声で問うた。

「おもしろいか、魔女」
「おもしろくないはずがないだろう。魔王ともあろうものが、あんな可愛らしい子に振り回されて……くふふふっ」

 なおも笑いが収まらないらしい魔女から目を逸らし、ギュスターヴは先ほどまでこの会議室にいたアヴィスとのやり取りを思い返す。
 タイムリミットまで三分を切った状態で、彼は可愛い可愛い我が子からオンラインフィットネス三十日間無料体験の解約手続きを押し付けられてしまったのだ。
 魔界に来て一月余りのアヴィスに比べれば手慣れているが、しかし彼とて殊更端末操作に長けているわけではない。
 先のオンラインヨガと同様に、何度も何度も解約を引き止める画面が繰り返された上、今度は散歩を禁止されてしまう可哀想なワンちゃんの画像が立ち塞がった。
 ワンちゃんにひどいことをしないでくださいっ! と両目をうるうるさせるアヴィスに気を取られ、タイムオーバー目前の危機的状況に陥ってしまったが──ここで、思わぬ救世主が現れる。
 ふいに横から伸びてきた手が、ギュスターヴの手から携帯端末を引っさらい、無事解約手続きを完遂してくれたのだ。
 そんなお手柄な手の主は、元の席に──ノエルの右隣に座り直して、はあ、と感慨深げなため息とともに呟いた。

「……初めて、あの子としゃべった」

 これに対し、ギュスターヴが呆れ顔で突っ込む。