「めっ」




 しん、と会議室の中が静まり返りました。
 ドリーとプルートーが、ぽかんと大きく口を開いています。間抜けです。
 ノエルや魔女、ジゼルやオランジュは苦笑いを浮かべ、その他の面々は一様に戸惑った表情になりました。
 エミールも、思いきり眉間に皺を刻んで、私とギュスターヴを見比べています。
 私はそんな一同をじっくりと見回してから、正面のギュスターヴに向き直って首を傾げました。

「もしかして……私は今、ギュスターヴに叱られたのですか?」
「……」

 ただの事実確認です。
 それなのに、ギュスターヴはどことなくばつが悪そうに見えました。
 それでも目を逸らさない魔王の顔を、私もまじまじと見上げて繰り返します。

「ねえ、ギュスターヴ。私を叱ったのですか?」
「……私は、お前のお父さんだからな。我が子が危険な真似をするならば、叱って止めるのもやむなしだ」

 なるほど、と頷きます。
 あくまで、ギュスターヴの言い分は分かったという意味のなるほどです。
 彼が私のお父さんを名乗ることを容認していたわけではありませんのであしからず。
 それにしましても、甘くて優しい味だと思った魔女の精気ですが、もしかしたら取り込み過ぎてはいけないものだったのかもしれません。
 何でも用法容量を守るのは大事です。
 私はもう一度うんと頷いてから、ギュスターヴに向かって両手を広げました。
 すると、この自称〝アヴィスのお父さん〟は条件反射のように、私を抱っこするのです。
 何やら、エミールが息を呑む気配がありましたが、私はさほど気にせず、ギュスターヴの綺麗な顔を両手で挟んで言いました。

「叱られついでに、一ついいですか? たいへんなことを思い出してしまったのですけれど」
「……なんだ」
「オンラインフットネス三十日間無料体験を解約し忘れていました」
「……なんて?」

 はいはい、目を丸くしている暇はありませんよ。
 急いでください。

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