「ごきげんよう、魔女の方」
「ごきげんよう、魔王の子。おや、私が魔女だと分かるのかい?」

 分かって当然です。
 何しろ彼女は、真っ黒い髪、真っ黒い服、真っ黒いとんがり帽子、と魔女じゃなければ逆に何なんだと言いたくなるような格好をしているのですから。
 初対面ではありますが、その金色の目が慈愛に溢れていたことと、私が近づいていってもギュスターヴが止めようとしないところを見ると、警戒が必要な相手ではないのでしょう。
 一方、魔女から二つ下がった席からは、何やらチクチクとした視線が飛んできます。
 私とそう変わらない年頃の女の子に見えますが、赤い髪からは二本の角が生え、鱗がついた長い尻尾とジゼルのそれと似た翼があることから、ドラゴンか何かでしょうか。
 ちなみに、彼女と魔女の間に座っていたのは鳥っぽい女の魔物でした。
 こちらは、ニコニコというよりはニヤニヤと、私と魔女、それからドラゴン娘を眺めています。
 そんな中、黒い袖の中から真っ白い手が伸びてきて、私の頬に添えられました。

「ふふ、可愛らしい……魔王の血肉で、こんなに可愛い子ができるなんてね」

 魔女のひんやりとした、たおやかな手です。
 かと思ったら、同じくらい冷たい唇が私のそれに重なりました。

「──は!? ちょ、ちょっと……アヴィス!?」

 エミールの戸惑う声が聞こえましたが、私はうっとりとして両目を閉じます。
 だって、流れ込んできた魔女の精気は、砂糖菓子のよう甘くて優しい味がしたのです。
 もっと味わいたくて、彼女の背中に両腕を回してしがみつこうとした時でした。