「おいで、アヴィス。起きたのなら、朝飯代わりに精気をやろう」

 早々にエミールへの興味を失ったらしいギュスターヴが、円卓の向こうから手招きをしてきます。
 もう十時を回ってしまっているので、朝食というよりはブランチという方がしっくりくるかもしれませんね。
 とかなんとか思いつつ、私はツンと澄まして答えます。

「いらないです。だって、ギュスターヴはくどいですもの」
「待て待て。その言い草では誤解を生む。くどいのは私ではなくて、私の精気だろう?」
「ご自分の精気がくどいことをようやく認めましたね」
「……はめられたな。我が子ながら恐ろしい」

 私達のやりとりに、ギュスターヴの両隣がくすくすと笑います。
 次に口を開いたのは、その一方であるノエルでした。
 情けない顔をする魔王を一瞥し、元天使が勝ち誇った笑み浮かべて言います。

「うっふふふふ……では、こちらにいらっしゃい。私の精気は好みなのでしょう?」
「結構です。いい加減、薄味にも飽きました」

 これまた私がぴしゃりと言いますと、ノエルは一瞬にして撃沈してしまいました。
 高い鼻をへし折ってやった時の、この高揚感。くせになりそうですね。
 がっくりと項垂れるノエルをプギャーしてから揃って手を上げたのは、今度は顔馴染みの女性陣でした。

「じゃあぁ、わたしのをあげるわぁ、アヴィスちゃぁん。本職ですものぉ、魔王様や天使様よりはぁ、おいしい自信があるわよぉ」
「そう言って、オランジュは逆に私の精気を吸う気でしょう。分かっていますからね」
「うふふふ。でしたら、わたくしが……」
「ジゼルはご自分の精気のえげつなさを自覚するべきです。そもそも、逆にこちらの血もつまみ食いしてやろうとか企んでいるに違いありません。騙されませんよ」

 バレたか、テヘペロ、じゃないです。まったく、油断も隙もない。
 そんな中、ちょいちょいと私を手招きする者がありました。
 ギュスターヴの左隣に座り、彼と同じくらいどっしりと構えている、落ち着いた雰囲気の女性です。
 私はしばしの逡巡の後、とことこと彼女の前まで歩いていくと、ワンピースを摘んで腰を落としました。