「僕も、思い出した。あんたがあの時扉を壊していったせいで、国王執務室が暖炉を焚いても焚いても冷えるものだから風邪をひいたんだよ。それを拗らせた結果が、僕の今の状態だ」

 つまり、エミールは風邪を拗らせて生死の境を彷徨っているということでしょうか。
 それって、やっぱりまずいのではありませんか?

「どうしたら、エミールの魂は元に戻れるのでしょうか。彼を死なせたくないのです」

 ドリーを押し退けて前に出た私がそう訴えますと、ギュスターヴは右隣に座ったノエルを一瞥し、無言のまま顎をしゃくりました。
 魔界に堕ちたとはいえ、ノエルは元天使。魂の扱いは、彼の方が精通しているのでしょう。
 ノエルは円卓に両肘を突いて指を組みますと、その上に顎を乗せてじっとエミールを眺めます。
 最初に会った時にも思いましたが、ノエルの──天使の髪と瞳の色は、やはりエミールのそれとそっくりでした。
 まるで鏡に写したかのような、エミールとノエルの青い目が交わります。
 しばしの間、二人は無言のままじっと見つめ合っていましたが、先に視線を逸らしたノエルがにっこりとした笑みを浮かべて言いました。

「こちらに足がないということは、まだ魂が体と繋がっている証拠です。地界で意識が戻れば、自然とその魂もあちらに帰るでしょう」
「本当に? エミールは、このまま死んでしまったりしませんか?」
「ええ、心配ありませんよ」
「そうですか、よかった……」

 ノエルの言葉にほっとして、私がエミールと微笑みを交わしていた時です。