「ア、アヴィスー!! こらあ、待ちなさーい!! って、意外と足速いなあ!?」
「本当に速いね、アヴィス。もしかして、その体になって鍛えたの?」
「ええ」

 と得意げな顔をして見せましたが、実際はオンラインフィットネスの三十日間無料体験で、足が速くなるトレーニング方法の動画を視聴しただけなのですけれど。

「……そういえば、あれって解約したかしら」

 そうこうしているうちに、目的地──魔王城会議室の扉の前に到着します。
 もちろん、最低限のマナーとしてノックをしようかとも思いましたよ。
 ですが、こちとら何と答えが返ってこようと押し入る気満々ですので、わざわざ問いかけることに何の意味がありましょうか。
 無意味なことは嫌いなんです。
 ギュスターヴだって、グリュン城の国王執務室を訪ねてきた時、ノックをするどころか兄とヒヨコごと扉を吹っ飛ばして入ってきましたもの。文句は言わせません。
 フォロワーさんが教えてくれました。
 ああいうのを、〝ダイナミックお邪魔します〟と言うのだそうです。
 そういうわけで、私がいきなりバンッと扉を押し開けますと、中にいた連中の視線が一斉にこちらを向きました。
 ひいっと背後でドリーが引き攣った悲鳴を上げておりますが、知ったことではありません。
 私は一同の顔をぐるりと見回してから、にっこりと微笑んで言いました。



「皆様、ごきげんよう」