魔王の寝室が、再び不可侵の領域となる。

 静寂が破られたのは、それからずっと時間が経ってのことだった。


「……ス……アヴィス。お願いだよ、起きて」


 それは、突然だった。
 ふいに、自分がギュスターヴを起こした時のようなセリフが降ってきて、アヴィスの意識は覚醒する。
 のろのろと開いた彼女の赤い瞳に映ったのは、金色の髪と晴れた空色の瞳だ。
 ところがそれは、この一月余りで見慣れた元天使のものではなく……



「……エミール?」



 アヴィスがずっと天使みたいな男の子だと思い込んでいた相手──エミール・グリュンのものだったのだ。