『あなたが解約してしまいますと、この猫は明日からエサを半分しかもらえなくなりますが、それでも解約しますか?』


「……ここから先には、どうしても進めないのです」

 アヴィスがしょんぼりとしてそう呟いた。
 ギュスターヴは慰めるように彼女の髪を撫でる。

「なるほどな。これはなかなかに悪質だ」

 と言いつつも、次の瞬間には迷わず解約を完了してしまった。
 そんな彼の顎の下でアヴィスが悲鳴を上げる。

「──ひ、ひどい、ギュスターヴ! あなたは鬼ですか! 悪魔ですか!!」
「魔王だが」
「どうするんですか! あの猫ちゃんは、明日から半分しかご飯をもらえなくなってしまいましたよっ!?」
「安心しろ。あれはユーザーの良心に付け入って解約を阻止するためのはったりだ。あの猫の写真もよく見るフリー素材だしな」

 そんなこんなで解約に成功したものの、ギュスターヴはアヴィスの目に触れさせないようさりげなく画面を閉じた。
 最後に表示されたのが、中指をおっ立てた猫ちゃんだったからだ。
 重ね重ね、悪質である。
 何も知らないアヴィスは、ギュスターヴを縋るように見上げて言った。

「本当ですか? あの猫ちゃんは、明日からご飯を半分に減らされてしまわない……?」
「ない」
「私が解約したせいで、ひもじい思いをする猫ちゃんは……?」
「いない」

 さっきのはったり画像の猫に負けないくらい、アヴィスの両目はうるうるしている。
 ギュスターヴはそんな彼女を見下ろしながら、しみじみと思った。
 アヴィスの姿を解約阻止画面に貼り付けられてしまったら、きっと自分は永遠に解約できないだろうな、と。
 そんな自分自身に苦笑いを浮かべつつ、ところで、とギュスターヴは話題を変えた。