「黙れ」


 再び魔王の凄まじい怒りがその場を支配します。
 ジゼルは声もなく口をパクパクさせ、ドリーは自分が黙れと言われたわけではないのに両手で口を塞ぎ、義姉は真っ青な顔をして客間の扉に縋り付きました。
 双子は、瞬きもせずにギュスターヴを見つめています。
 私はそんな一同を見回してから、ギュスターヴに向き直って口を開きました。

「そんなに怒らないでくださいな。相手を庇うつもりはありませんが、先に殴ったのは私なんですよ? まあ、全然効かなかったのですけれど」
「またか、アヴィス。勇ましいのは結構だが、怪我はするなと言いつけたはずだぞ」
「でも、極力って言われました。絶対に、と言われてはいませんし、元より私はあなたの言葉に頷いてはおりませんもの」
「お前は……ああ言えばこう言う」

 ますます眉を顰めたギュスターヴが盛大なため息を吐きます。
 私は、またその眉間を指先でこちょこちょとしてから、ツンと澄まして言ってやりました。
 
「そもそも、今回はギュスターヴの出番なんてございません。私を殴った方はドリーがさっさとミンチにしてしまいましたもの」
「なん……だと……?」
「ひいいっ、魔王様! 仕事が早くてごめんなさいっ!!」

 ギュスターヴにギロリと睨まれたドリーが怯えて壁にへばり付きます。
 そんな中、ついに前大臣を喰らい尽くしたのか、成れの果て達が顔を上げました。
 知性も理性も失った彼らは、ふらふらと私達の視界を横切ろうとして……