「あら、びっくり。こんなになってたんですねぇ」
「痛覚がないというのも考えものだな」

 男にぶたれた左の頬は大きく腫れ上がり、唇の端など切れてしまっていました。
 左耳が聞こえにくいので鼓膜も傷ついているかもしれません。
 相変わらず痛くも痒くもありませんが、確かにこの有様では自称〝アヴィスのお父さん〟が腹を立てるのも無理はありませんね。

「これはひどい。記念に写真を撮っておきましょう。はい、ギュスターヴ。笑ってください?」
「笑えるものか」

 せっかくなので、いそいそと携帯端末を取り出して自撮りをしますが、頬を寄せ合って仲良く写したギュスターヴの顔はたいそう不満げなものでした。
 それと、少し困ったことに……

「あらら……」

 油断をしていると、すぐにまた垂れてきてしまうのです。
 鼻血が。
 慌てて手で押さえようとしましたところ、ギュスターヴの指が先にそれを拭ってしまいました。
 すると、ああっ! と足下から残念そうな声が上がります。
 鼻を押さえながら下を向きますと、いつの間にやってきたのか、どピンクのコウモリが床に這いつくばっておりました。
 どうやらジゼルは、先ほど床に垂らしてしまった私のハナタレ……ではなく、ハナヂタレ第一号を舐めとった上に、新たに落ちてくるのを待ち侘びていたようです。
 鼻血を舐めるとか、ドン引きですね。どうかしてます。
 それにしても、自分の手で滅したはずのジゼルがここにいることに、ギュスターヴが驚いている様子はありません。
 ただ、無感動な目で足下を一瞥したかと思ったら、彼女をガスッと踏みつけてしまいました。
 当然、血に飢えた獣は抗議の声を上げますが……