「……ギュスターヴ」


 白銀色の髪と赤い瞳をした、やたらと尊大で馴れ馴れしく──そして、とても美しい魔界の王が、真っ白い毛皮の襟付きマントをはためかせて悠然と佇んでいます。
 なぜギュスターヴがここに、なんていうのは愚問でしょう。
 私が少しでも血を流せば、この自称〝アヴィスのお父さん〟は、どこにいたって飛んできてしまうのですから。
 たとえ、それが鼻血でも。
 とはいえ、この時のギュスターヴは、私も初めて見るような顔をしていました。
 それはもう、これぞ魔王とでもいうべき、凄まじい形相だったのです。


「──誰だ」


 低く、深く、重い声が、静かに問いました。
 とたんに、日の光が差し込んでいたはずの廊下が一気に暗くなった気がします。
 ギュスターヴは私の顔を──さっき男にぶたれた左の頬を凝視しているようでした。
 鮮血よりもまだあざやかな赤い瞳の奥では、ごうごうと炎が燃え盛っているように錯覚します。
 彼は私の顎を掴んだまま、その親指の腹で唇の端を撫でて続けました。



「誰が、私の子をぶった」



 魔王は──いえ、〝アヴィスのお父さん〟は、どうやらたいそうお怒りのようです。