「──どいつもこいつも」

「ん?」
「はい?」


 よく聞き取れなかったとばかりに首を傾げる、銀と金。
 赤い瞳と青い瞳に見下ろされて怒りを加速させる、私。


「──愚か者ですっ!」


 ガツッ! と、今度は鈍い音が響きました。
 勢いよく突き上げた私の拳が、頭上にあった顎に見事に命中した音です。


 アヴィス・ローゼオ、享年十八。

 死因──毒殺。


 やがてグリュン国王となるエミール王子の許嫁として、清く正しく、そして慎ましくをモットーにこれまで生きてまいりました。
 そんな私が生まれて初めて──いいえ、死んでからも初めて殴った相手は、全ての魔物の頂点に立つ魔界の王、魔王陛下そのひとだったのです。