「お願い……お願いだから消えてちょうだい、アヴィス。これ以上、私の人生を掻き乱すのはやめて……」



 私は、なんと言葉を返せばいいのか分かりませんでした。

「義姉さま……」

 義姉が十年もの間、こんな思いを抱えていたなんて知らなかったのです。
 彼女が自分を愛してくれていると信じ、疑ったこともありませんでした。
 自分の存在が、この愛おしく慕わしい人を苦しめているなんて、考えも及ばなかったのです。

「ごめんなさい……」

 なんて、傲慢で浅はかで、そして愚かな人間だったのでしょう。
 私は、自分が恥ずかしくてたまらなくなりました。
 それでも、逃げ出したくなるのをどうにかこうにか堪え、その場に踏み止まります。

「何も知らずに甘えてばかりで、ごめんなさい……」

 消えろと言われたのですから、一刻も早く義姉の目の前から去るべきなのかもしれません。

「ご恩返しもできないまま、死んでしまって申し訳ございませんでした」

 けれども、その前に、どうしても伝えておかなければいけないことあったのです。

「この年まで育ててくださり、ありがとうございました。義姉様が側にいてくださったから、私は少しも寂しい思いをせずに参りました」

 私は深々と頭を下げます。
 そうして、半月前──毒入りワインを飲まされて迎えた突然の死によって、義姉に告げることも叶わなかった言葉をここに残すのでした。