現れたのは、兄の妻である現ローゼオ侯爵夫人、ローザ・ローゼオ。
 今の私と同じ十八歳で、伯爵家からローゼオ侯爵家に嫁いでいらっしゃいました。
 それから一年も経たずに義理の両親を失い、女主人の役目と私の母親代わりを担うことになりましたが、それはもう立派に務めてこられたのです。
 グライスとパルスが生まれてからも、義姉は変わらず私に愛情を注いでくれました。
 八歳で死に別れた生母の顔はもう朧げで、母と言われれば真っ先に義姉を思い浮かべるほどです。

「義姉様……お会いしたかった!!」

 私は居てもたっても居られず駆け出しました。
 生前ならば、はしたないと叱られていたかもしれませんが、あいにくもう王太子妃にも王妃にもならないんですもの。
 ドレスの裾が少しぐらい捲れ上がったって、どうってことありません。
 顔には満面の笑みが乗っていました。
 義姉との再会が嬉しくて嬉しくて、抑えようがないのです。
 さっきぶたれた左の頬は熱を持ち、唇の端が引き攣り、何だか左耳も聞こえにくいような気がしますが、瑣末なこと。
 とにかく、一刻も早く義姉の側に行きたくて、私は死屍累々散らばる廊下を走ります。

 ところが……
 


「──来ないでっ!!」



 ふいに投げつけられた悲鳴のような声が、私の身体を一瞬にして凍り付かせたのでした。