「──おいっ! 何の騒ぎだっ!!」
「あら……」

 慌てて客間から飛び出してきた相手の顔を見て、私は思わず眉を顰めました。
 反乱軍を率いてローゼオ侯爵家を占拠しているのは、前政権の大臣だと聞いていましたが、それが因縁の相手であったことを思い出したからです。
 忘れもしません。
 私が絶命しようとしていたまさにその時、エミールを幽閉せよとの第二王妃の演説に、真っ先に賛同の声を上げた男です。
 彼は、第二王子ジョーヌ殿下を担ぎ上げようと目論んでいた公爵家の腰巾着で、騎士団を犬と蔑んでいた文官の筆頭でした。
 しかしながら、野蛮だ何だと言って祖国を守護する騎士達に散々な扱いをしてきたこの男が、今は金で雇った傭兵に守ってもらっているだなんて……

「愚かにもほどがあります。いえ、一周回っていっそ面白くなってきました」

 脳みそぐわんぐわんが収まったため、私はここでようやく立ち上がります。
 そうして、念の為にグライスとパルスを物陰に隠してから、前大臣に向き直りました。
  
「ごきげんよう、閣下」
「ア、アヴィス・ローゼオ!? どうして……死んだはずではっ!?」
「閣下が恨めしくて、魔界の底から戻って参りました。うらめしや~」
「ひ、ひいいっ……化け物っ!!」

 まあ、化け物とは失敬な。
 彼の横で、知性の欠片もなさそうな顔をして煙を上げている成れの果てに言うならまだしも、ギュスターヴとお揃いの色になっただけで、私の姿は生前と変わらないというのに。
 などと、憤慨しておりますと……

「ひっ……な、なんだ、貴様は──ぎゃっ!?」