「仕方がないですわねぇ、わたくしが一肌脱いで差し上げますわ」

 舌なめずりをしながらそう言って、どピンクのコウモリは羽音もなく私の肩から飛び立ちました。
 そうして、日の光を避けるように傭兵達の頭上を飛び越えると、客間の扉の一番近くにいた男の背後に回り……

「──!?」

 ガブッと首筋に食らいついたのです。
 その瞬間の男の形相といったら、断末魔のごとき凄まじいものでしたが、不思議なことに声が出ておりません。
 そのため、客間に近づく者を警戒して彼に背中を向けていた他の傭兵達は、彼の最期に気づくことができませんでした。
 ジゼルに噛みつかれた男の肌はみるみるうちに青白く変色し、目は澱み、その顔からは一切の知性が消え失せていきます。
 半月前、私がヒヨコとともに訪れた彼女の屋敷に溢れかえっていた、成れの果て達と同じように。
 その首筋から牙を抜いたジゼルは、その後も次々と、静かに傭兵達を襲いました。
 ところが、残すところ三人ばかりとなったところで、最初に血を吸われて成れの果てとなった男が、血を求めてふらふらと歩き出してしまったのです。
 青白く変色した彼の肌は、日の光が当たったとたんにプスプスと煙を上げ始めました。

「うわっ、な、何だ!?」
「お前ら、いったいどうしたんだ!?」
「ひい……!!」

 ギャアア、と成れの果てが悲鳴を上げます。
 仲間の異様な状態に気付き、残された三人も騒ぎ出そうとしたものですから、私はたまらず角から飛び出します。ドリーも慌ててそれに続きました。
 私はモンコツを振りかぶり、最初に目が合った一際大きな男の横っ面を殴りつけます。
 ドリーは、残る二人それぞれの顔面に拳をめり込ませました。
 後者はどちらも、悲鳴を上げる間もなく床に沈みましたが……