「あいたぁっ!?」
「中身がからっぽな音がしましたね」
「ひどおっ……って、なんで!? なんで、私を殴ったの!?」
「何でって、モンコツで」

 不意打ちに驚いて振り返ったドリーの顔面は、返り血を浴びてそれはもうえらいこっちゃになっておりました。
 首を捥がれずに済んだ傭兵は這々の体で逃げ出そうとしましたが、私はすかさずそいつの頭もモンコツで殴りつけて昏倒させます。
 それから、なんでなんでと煩いドリーのエプロンのポケットからハンカチを抜き取り、その血みどろの顔を拭ってやりながら言い聞かせました。

「あまり派手に騒ぎますと、焦った連中が義姉に危害を加えるかもしれませんでしょう? 客間はもうすぐそこです。そろそろ慎重な行動をお願いします」
「あっ、そ、そう……そうね。分かったわ」

 ドリーは大人しく私に顔を拭かれながら、こくこくと頷きます。
 脳筋ですけど、彼女のこういう素直なところはなかなか好感が持てます。
 まあ調子に乗るので、本人にはやっぱり絶対言いませんけど。
 そうこうしているうちに、義姉が前大臣と交渉しているという客間まで、角を曲がればすぐのところまでやって参りました。
 しかしながら、午後の日の光が差し込むその前の廊下ではいまだ数人の傭兵達が睨みをきかせております。
 可及的速やかに、かつ、客間にいる人々にばれないよう静かにこれを排除せねばなりません。
 今にも飛び出しそうなドリーをどうどうと宥めつつ、さてどうしたものかと私が思案しておりますと、思わぬ声が上がりました。
 ここまで傍観に徹していたジゼルです。